ラクトバチルス菌とビフィズス菌の違いや特徴と腸内環境への効果

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の違い

善玉菌の代表格:ラクトバチルス菌とビフィズス菌
🔬
分類学的な違い

ラクトバチルス菌はフィルミクテス門に属し、ビフィズス菌はアクチノバクテリア門に属する全く別の菌種です。

🧪
産生物の違い

ラクトバチルス菌は主に乳酸を産生し、ビフィズス菌は乳酸と短鎖脂肪酸(酢酸)を産生します。

🦠
生息環境の違い

ラクトバチルス菌は酸素があっても生育可能で広く分布し、ビフィズス菌は酸素に弱く主に大腸に生息します。

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の分類学的な違い

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、一見似ているように思われがちですが、分類学的には全く異なる菌です。この違いは「ヒトとクラゲ」ほどの大きな違いがあると言われています。

 

ラクトバチルス菌(Lactobacillus)は、フィルミクテス門(Firmicutes)に属する菌で、乳酸菌の代表格として知られています。乳酸菌という名称は分類学上の正式な呼び名ではなく、糖を発酵して大量の乳酸を作る細菌の総称です。ラクトバチルス属の中には、アシドフィルス種(acidophilus)やガセリ種(gasseri)などさまざまな菌種が存在します。

 

一方、ビフィズス菌(Bifidobacterium)はアクチノバクテリア門(Actinobacteria)に属し、ビフィドバクテリウム属として分類されます。ビフィズス菌の中にも、ロンガム種(longum)やブレーベ種(breve)など多様な菌種が存在します。

 

両者は善玉菌として腸内環境を整える働きがありますが、その起源や特性は大きく異なっています。このような分類学的な違いが、それぞれの菌の特性や健康効果の違いにも関連しています。

 

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の産生物と代謝の違い

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、糖の代謝方法や産生物に明確な違いがあります。

 

ラクトバチルス菌は、その名の通り主に乳酸を産生します。糖類を発酵する際に、1モルのグルコースから2モルのATP(エネルギー)と2モルの乳酸を生成します。ラクトバチルス菌は限られた生合成能力しか持たず、精製された糖を発酵して乳酸を主要な最終産物として生成します。

 

一方、ビフィズス菌は糖類を発酵する際に、乳酸だけでなく短鎖脂肪酸(主に酢酸)も産生します。具体的には、1モルのグルコースから2.5モルのATP、1.5モルの酢酸、1モルの乳酸を生成します。この短鎖脂肪酸の産生能力は、ビフィズス菌の重要な特徴の一つです。

 

短鎖脂肪酸は腸内環境を整えるだけでなく、全身の健康維持に関わる多くの働きを持っています。免疫系の調整、腸管バリア機能の強化、炎症の抑制など、様々な健康効果に関与していることが研究で明らかになっています。このため、短鎖脂肪酸を大腸で多く作り出すビフィズス菌は、健康維持において特に重要な役割を果たしていると考えられています。

 

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の生息環境と酸素耐性

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、生息環境と酸素への耐性において大きな違いがあります。

 

ラクトバチルス菌は通性嫌気性菌であり、酸素がある環境でも酸素がない環境でも生育できる特性を持っています。このため、自然界の様々な場所に広く分布しています。ヨーグルトや漬物などの発酵食品、土壌、植物、そして人間や動物の消化管や皮膚など、多様な環境に生息しています。

 

特筆すべきは、ラクトバチルス菌(乳酸桿菌)が女性の膣内に生息する常在菌の8~9割を占めていることです。膣内でグリコーゲンを分解して乳酸を産生し、膣内を酸性に保つことで雑菌の侵入を防ぎ、膣の「自浄作用」に大きく貢献しています。

 

一方、ビフィズス菌は偏性嫌気性菌であり、酸素がある環境では生存できません。そのため、酸素がほとんど存在せず、ヒトが消化できない食物繊維が豊富な大腸に適応して生息しています。ビフィズス菌は食物繊維を栄養源として利用する能力が高く、大腸の環境に適応しています。

 

大腸内の細菌叢(腸内フローラ)において、ビフィズス菌と乳酸菌の割合は、なんと99.9%がビフィズス菌、0.1%が乳酸菌という圧倒的な差があります。これは、乳酸菌が食物繊維を利用する能力が高くないため、エネルギー不足になり大腸にあまり生息できないためと考えられています。

 

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の健康効果と皮膚への影響

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、それぞれ異なる健康効果を持ち、皮膚の健康にも影響を与えることが研究で明らかになっています。

 

ラクトバチルス菌は、腸内環境を整えるだけでなく、免疫系の調整や病原菌の増殖抑制に効果があります。特に、ラクトバチルス・アシドフィルスL-1、ラクトバチルス・ブルガリクス6、ラクトバチルス・プランタルム24-4Bなどの菌株は、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌などによる下痢の予防や改善に効果があることが報告されています。

 

また、ラクトバチルス菌は皮膚の健康にも関与しています。皮膚の表面にも常在菌として存在し、皮膚のpHバランスを維持し、病原菌の増殖を抑制する役割を果たしています。特にアトピー性皮膚炎やニキビなどの皮膚トラブルに対して、ラクトバチルス菌の摂取が症状の改善に効果があるという研究結果も報告されています。

 

一方、ビフィズス菌は整腸作用だけでなく、アレルギー症状の緩和や認知機能の維持など、全身の健康に様々な良い影響を与えることが最新の研究で明らかになっています。特に、ビフィズス菌が産生する短鎖脂肪酸は、腸管バリア機能を強化し、炎症を抑制する効果があります。

 

ビフィズス菌の中でも、ビフィドバクテリウム・ラクティスL-3、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダムなどの菌株は、病原菌による下痢の予防や改善に効果があることが報告されています。

 

皮膚の健康に関しては、ビフィズス菌の摂取が皮膚のバリア機能を強化し、アトピー性皮膚炎や乾燥肌などの症状改善に効果があるという研究結果も増えています。特に、腸内環境の改善を通じて免疫系のバランスを整えることで、皮膚の炎症反応を抑制する効果が期待されています。

 

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の菌株による効果の違い

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、それぞれの属内に多様な菌種と菌株が存在し、菌株ごとに異なる健康効果を持つことが重要なポイントです。

 

菌株とは、1つの細菌から分裂増殖した菌の集まりを指し、同じ菌種に属する異なる菌株であっても、様々な性質を調べると菌株ごとに異なる特性を持ちます。これは、同じ動物種に属する人間であっても、個人ごとに特徴や性格が異なるのと同じ原理です。

 

例えば、ラクトバチルス・アシドフィルスの中でも、L-1株とL-2株では、腸内での定着性や免疫調整能力、病原菌への拮抗作用などが異なります。同様に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの中でも、BB536株とBB-12株では、産生する短鎖脂肪酸の量や種類、アレルギー症状への効果などが異なります。

 

このような菌株レベルでの違いは、プロバイオティクス製品を選ぶ際に非常に重要です。健康効果を期待する場合、単に「ラクトバチルス菌」や「ビフィズス菌」と表示されているだけでなく、具体的にどの菌株が含まれているか、そしてその菌株についての科学的な研究結果があるかどうかを確認することが大切です。

 

例えば、皮膚の健康改善を目的とする場合、皮膚のバリア機能強化やアトピー症状の緩和に効果があると研究で示されている特定の菌株を選ぶことで、より効果的な結果が期待できます。

 

また、菌株によって生存性や安定性も異なるため、製品中の菌が生きたまま腸まで届くかどうかも重要な要素です。特に、ビフィズス菌は酸素に弱いため、製品の保存状態や摂取方法によって効果が大きく変わる可能性があります。

 

菌株の違いについて詳しく解説している日本ビフィズス菌センターの情報

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の相乗効果と摂取方法

ラクトバチルス菌とビフィズス菌は、それぞれ異なる特性と健康効果を持っていますが、両者を組み合わせて摂取することで相乗効果が期待できることがわかっています。

 

両菌を併用することの利点は、それぞれの菌が異なる環境(小腸と大腸)で作用し、消化管全体の健康をサポートできることです。ラクトバチルス菌は酸素耐性があり、小腸でも活動できるのに対し、ビフィズス菌は主に大腸で活動します。このため、両者を組み合わせることで、消化管全体の健康維持に貢献できます。

 

また、ラクトバチルス菌が産生する乳酸と、ビフィズス菌が産生する短鎖脂肪酸(酢酸)は、それぞれ異なる健康効果を持っています。乳酸は腸内のpHを下げて有害菌の増殖を抑制し、短鎖脂肪酸は腸管バリア機能の強化や免疫調整など、全身の健康に関わる多様な効果を発揮します。

 

効果的な摂取方法としては、以下のポイントが重要です。

  1. 生きた菌を含む製品を選ぶ:熱処理されていない、生きた菌を含む製品を選びましょう。

     

  2. 菌株を確認する:製品に含まれる具体的な菌株と、その菌株についての研究結果を確認しましょう。

     

  3. 適切な保存方法:特にビフィズス菌は酸素に弱いため、製品の保存方法(冷蔵保存など)を守りましょう。

     

  4. プレバイオティクスとの併用:食物繊維などのプレバイオティクスを一緒に摂ることで、腸内での菌の増殖をサポートできます。

     

  5. 継続的な摂取:一時的な摂取ではなく、継続的に摂取することで効果が期待できます。

     

皮膚の健康改善を目的とする場合、内側からのアプローチとして両菌を含むサプリメントやヨーグルトなどの発酵食品を摂取することと、外側からのアプローチとして両菌を含むスキンケア製品を使用することを組み合わせると、より効果的かもしれません。

 

特に、アトピー性皮膚炎や乾燥肌などの皮膚トラブルに悩む方は、腸内環境の改善が皮膚の健康にも良い影響を与えることが研究で示されているため、両菌をバランスよく摂取することが推奨されます。

 

ビフィズス菌の健康効果について詳しく解説している森永乳業の情報

ラクトバチルス菌とビフィズス菌の最新研究と将来展望

ラクトバチルス菌とビフィズス菌に関する研究は日々進化しており、新たな健康効果や応用方法が次々と発見されています。

 

最近の研究では、腸内細菌と脳の関係を示す「腸脳相関」に注目が集まっています。ラクトバチルス菌やビフィズス菌が産生する物質が、神経伝達物質の産生に影響を与え、メンタルヘルスや認知機能に関与していることが明らかになってきました。特に、ビフィズス菌が産生する短鎖脂肪酸は、脳の炎症を抑制し、認知機能の維持に役立つ可能性が示唆されています。

 

また、

page top