アナフィラキシーと症状と原因と予防と治療の基礎知識

アナフィラキシーの基礎知識

アナフィラキシーとは
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重篤なアレルギー反応

アレルギーが全身に強く出た状態で、急速に進行し生命を脅かす可能性がある

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発症の速さ

数分から数時間以内に複数の臓器に症状が現れる

💉
治療の緊急性

エピネフリン(アドレナリン)の迅速な投与が最も重要

アナフィラキシーとは、アレルギー反応の中でも最も重篤な全身性の過敏反応です。通常、アレルゲンへの暴露後、数分から数時間以内に急速に発症し、進行します。この反応は免疫学的機序によって引き起こされ、主にIgE抗体を介したI型アレルギー反応に分類されます。

 

アナフィラキシーの特徴は、複数の臓器系に同時に症状が現れることです。皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状、消化器症状などが急速に進行し、適切な治療が行われないと致命的となる可能性があります。厚生労働省の人口動態統計集計によると、2001年から2020年までの20年間で1,161人がアナフィラキシーショックにより死亡しており、年間平均で約58人が命を落としています。

 

アナフィラキシーの病態生理学的メカニズムは、アレルゲンが体内に入ると、それが肥満細胞や好塩基球上のIgE抗体と結合し、これらの細胞からヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が放出されることで始まります。これらの物質が血管拡張、血管透過性亢進、気管支収縮などを引き起こし、様々な症状を発現させます。

 

アナフィラキシーの症状と診断基準

アナフィラキシーの症状は多岐にわたり、その重症度も様々です。英国蘇生協議会のアナフィラキシー救急処置ガイドラインによると、以下の3つの基準がすべて揃った場合、アナフィラキシーの可能性が高いとされています。

  1. 突然に発症し急速に進行する症状
  2. 生命を脅かす気道の異常および/または呼吸の異常および/または循環の異常
  3. 皮膚や粘膜変化(発赤、じんま疹、血管性浮腫)

ただし、皮膚症状は最大20%の症例では軽微であるか、まったく現れないこともあります。

 

アナフィラキシーの主な症状とその出現頻度は以下の通りです。
【皮膚症状】(約90%の症例で出現)

  • じんま疹、血管性浮腫:85-90%
  • 顔面紅潮:45-55%
  • 発疹のない痒み:2-5%

【呼吸器症状】(40-60%)

  • 呼吸困難、喘鳴:45-50%
  • 喉頭浮腫:50-60%
  • 鼻炎:12-20%

【循環器症状】

  • めまい、失神、血圧低下:30-35%

【消化器症状】

  • 嘔気、下痢、腹痛:25-30%

【その他】

  • 頭痛:5-8%
  • 胸痛:4-6%

診断においては、臨床症状が最も重要です。アナフィラキシーの現場では一刻を争うため、バイオマーカーの測定結果を待つことなく、臨床症状に基づいて診断を下し、迅速に治療を開始する必要があります。ただし、後の確認のために、総トリプターゼ値を測定する場合は、発症15分後から3時間以内の測定値とベースライン測定値を比較することが推奨されています。

 

アナフィラキシーの主な原因物質と発症メカニズム

アナフィラキシーを引き起こす主な原因は、食物、薬剤、昆虫刺咬の3つで、全体の70-80%を占めています。これらの原因物質によるアナフィラキシーの発症メカニズムは、主にIgE依存性の免疫反応によるものですが、一部にはIgE非依存性の経路も存在します。

 

【食物】
食物によるアナフィラキシーは、特に乳幼児や学童期の子どもに多く見られます。日本における主な原因食物は以下の通りです。

  • 0〜3歳:卵
  • 4〜6歳:牛乳
  • 7〜19歳:落花生(ピーナッツ)
  • 20歳以上:小麦

これらの食物アレルゲンは、消化管から吸収された後、血流に乗って全身に運ばれ、感作された肥満細胞や好塩基球と反応します。

 

【薬剤】
薬剤によるアナフィラキシーは、特に静脈内投与された場合、非常に急速に症状が出現します。主な原因薬剤には以下があります。

  • 抗生物質(特にペニシリン系、セフェム系)
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • 造影剤
  • 筋弛緩薬
  • 生物学的製剤

薬剤によるアナフィラキシーのメカニズムは複雑で、IgE依存性の経路だけでなく、補体活性化やマスト細胞への直接作用など、様々な機序が関与しています。

 

【昆虫刺咬】
ハチ(特にスズメバチ)やアリなどの昆虫刺咬によるアナフィラキシーも重要な原因です。昆虫毒に含まれるタンパク質が抗原となり、IgE抗体を介した反応を引き起こします。

 

【その他の原因】

  • ラテックス(天然ゴム)
  • 運動(特に食物依存性運動誘発アナフィラキシー)
  • 寒冷刺激
  • 精液
  • 添加物(タートラジン、安息香酸塩など)

発症メカニズムの中核となるのは、肥満細胞からの化学伝達物質の放出です。これにより、血管拡張、血管透過性亢進、気管支平滑筋収縮などが起こり、様々な臓器に症状が現れます。特に循環血液量の減少(血管内脱水)と末梢血管抵抗の低下による血圧低下は、アナフィラキシーショックの主要な病態生理学的特徴です。

 

アナフィラキシーの緊急時対応と治療法

アナフィラキシーは急速に進行する可能性があるため、迅速かつ適切な対応が不可欠です。治療の基本は以下の通りです。
【第一選択薬:エピネフリン(アドレナリン)】
アナフィラキシーの治療において、エピネフリンは最も重要な薬剤です。皮膚、呼吸器、消化器、循環器症状のうち2つ以上の症状が認められる場合は、迷わずエピネフリンを投与すべきです。

 

エピネフリンの作用機序。

  • α1受容体刺激:末梢血管収縮→血圧上昇
  • β1受容体刺激:心筋収縮力増強、心拍数増加→心拍出量増加
  • β2受容体刺激:気管支拡張、肥満細胞からの化学伝達物質放出抑制

エピネフリンの投与方法。

  • 成人:アドレナリン0.3-0.5mg(0.3-0.5mL、1:1000溶液)を大腿部外側の筋肉内に投与
  • 小児:0.01mg/kg(最大0.3mg)を大腿部外側の筋肉内に投与
  • 必要に応じて5-15分ごとに繰り返し投与可能

エピペン®(アドレナリン自己注射薬)は、アナフィラキシーのリスクがある患者が携帯し、症状発現時に自己投与するための医療機器です。

 

【その他の治療】

  1. 酸素投与:低酸素血症がある場合
  2. 輸液療法:生理食塩水の急速投与(成人1-2L、小児20mL/kg)
  3. 気道確保:必要に応じて気管挿管や気管切開
  4. 第二選択薬。
    • 抗ヒスタミン薬:H1拮抗薬(皮膚症状に有効)
    • 副腎皮質ステロイド:遅発性反応の予防(効果発現まで4-6時間)
    • β2刺激薬吸入:気管支痙攣に対して

【二相性反応への対応】
アナフィラキシーの約20%の症例で、初期症状が改善した後、数時間から72時間以内に症状が再燃する「二相性反応」が認められます。このリスクが高いのは。

  • エピネフリン投与が遅れた患者
  • 複数回のエピネフリン投与を要した患者
  • 重症例

二相性反応のリスクがある患者は、少なくとも24時間の入院観察が推奨されます。

 

アナフィラキシーの予防と長期管理

アナフィラキシーの予防と長期管理は、患者の生命を守るために極めて重要です。以下の戦略が推奨されます。
【原因物質の回避】
アナフィラキシーの既往がある患者は、原因物質を特定し、それを徹底的に回避することが基本です。

 

  • 食物アレルギー:原因食物の厳格な除去、食品表示の確認
  • 薬物アレルギー:原因薬剤とその交差反応性のある薬剤の回避、代替薬の検討
  • 昆虫アレルギー:屋外活動時の注意、香水や明るい色の衣服の回避

【アクションプランの作成】
患者とその家族、学校や職場の関係者に対して、アナフィラキシー発症時の対応を明確に示したアクションプランを作成し、共有することが重要です。このプランには以下の内容を含めます。

  1. アナフィラキシーの症状の認識方法
  2. エピペン®の使用タイミングと方法
  3. 救急車の要請基準
  4. 緊急連絡先

【エピペン®の処方と携帯】
アナフィラキシーのリスクがある患者には、エピペン®を処方し、常時携帯するよう指導します。また、定期的にエピペン®の使用方法のトレーニングを行うことも重要です。エピペン®には使用期限があるため、期限切れに注意し、適宜更新する必要があります。

 

【免疫療法】
特定のアレルゲン(特にハチ毒)に対しては、アレルゲン免疫療法(減感作療法)が有効な場合があります。これにより、再発リスクを大幅に低減できる可能性があります。

 

【医療アラートの装着】
アナフィラキシーのリスクがある患者は、医療アラートブレスレットやネックレスを装着することで、意識不明時でも周囲に自身の状態を知らせることができます。

 

【定期的なフォローアップ】
アレルギー専門医による定期的なフォローアップを受け、アレルギーの状態や治療計画を見直すことが推奨されます。特に小児の食物アレルギーでは、年齢とともに耐性が獲得される場合もあるため、定期的な評価が重要です。

 

アナフィラキシーと食物依存性運動誘発アナフィラキシーの関連性

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(Food-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis: FDEIA)は、特定の食物摂取後に運動を行うことで誘発されるアナフィラキシーの特殊型です。この状態は一般的なアナフィラキシーと異なり、食物摂取単独または運動単独では症状が現れず、両者の組み合わせによって初めて発症するという特徴があります。

 

【発症メカニズム】
FDEIAの正確な発症メカニズムは完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。

  1. 運動による消化管透過性の亢進:運動によって腸管粘膜のバリア機能が低下し、通常は吸収されない大きさのアレルゲンが血中に入りやすくなる
  2. 運動による血流再分配:運動中は皮膚や筋肉への血流が増加し、消化管の血流が減少することで、アレルゲンの吸収パターンが変化する
  3. 運動による体温上昇:体温上昇によって肥満細胞の活性化閾値が低下する可能性がある
  4. 運動によるpHの変化:運動による乳酸産生などで体内のpHが変化し、タンパク質の構造や抗原性が変化する

【主な原因食物】
日本におけるFDEIAの主な原因食物は以下の通りです。

  • 小麦(特にω-5グリアジン):日本人のFDEIAの約60%を占める
  • 甲殻類(エビ、カニなど)
  • 果物(リンゴ、オレンジなど)
  • ナッツ類
  • セロリ
  • 魚類

【臨床的特徴】
FDEIAの典型的な臨床経過は以下の通りです。

  1. 原因食物の摂取(通常は症状なし)
  2. 食後2〜4時間以内に運動
  3. 運動開始後30分以内に症状発現
    • 初期症状:かゆみ、蕁麻疹、顔面紅潮
    • 進行すると:呼吸困難、腹痛、嘔吐、血圧低下など

【診断と管理】
FDEIAの診断は主に詳細な病歴聴取に基づきますが、確定診断のために食物摂取後の運動負荷試験が行われることもあります(ただし、重篤な反応のリスクがあるため、医療機関での慎重な監視下で実施する必要があります)。

 

管理方法としては以下が推奨されます。

  1. 原因食物と運動の時間的分
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