

薬疹とは、薬剤やその代謝産物によって引き起こされる皮膚や粘膜の発疹のことです。薬疹は医薬品副作用の中でも最も頻度が高く、皮膚科を受診する患者さんの中でも一定の割合を占めています。
薬疹の発症メカニズムは主に免疫学的機序によるものと非免疫学的機序によるものに分けられます。免疫学的機序では、薬剤が体内で異物として認識され、免疫システムが過剰反応を起こすことで発疹が生じます。非免疫学的機序では、抗腫瘍薬による脱毛やステロイドによるざ瘡(ニキビ)などが含まれます。
薬疹の症状は多岐にわたり、軽微なものから生命を脅かす重症なものまでさまざまです。発症のタイミングも薬剤の種類や薬疹のタイプによって異なります。一般的には、初めて服用する薬の場合、アレルギーが成立するまでの感作期間が必要であるため、投与直後に薬剤アレルギーを生じる可能性は低いとされています。
薬疹の症状は多様ですが、主な症状には以下のようなものがあります。
薬疹の症状の特徴として、多くの場合、体の中心(体幹)に生じ、四肢末梢に向かって拡大していくことが挙げられます。また、左右対称性に発疹が出現することも特徴的です。
薬疹の症状の重症度は、原因となる薬剤や個人の感受性によって大きく異なります。軽症の場合は発疹やかゆみのみで済むこともありますが、重症例では全身症状を伴い、時には命に関わることもあります。
薬疹を引き起こす可能性のある薬剤は非常に多岐にわたりますが、特に頻度が高いものとしては以下のようなものが挙げられます。
特に抗てんかん薬のカルバマゼピンについては、HLA-A31:01やHLA-B15:11といった特定のHLA型を持つ人で薬疹のリスクが高まることが報告されています。2023年の理化学研究所の研究では、カルバマゼピンによる重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症)の患者におけるHLA-B*15:11の保有率は29%で、日本人集団における保有率2%と比較して統計的に有意に高いことが明らかになっています。
理化学研究所:抗てんかん薬による薬疹の種類別リスク因子を発見
薬疹の発症メカニズムは複雑で、いくつかのタイプに分類されます。Gell and Coombs分類によると、以下の4つのタイプがあります。
薬疹の発症時期は、薬剤の種類や薬疹のタイプによって異なりますが、一般的には以下のようなパターンがあります。
薬疹の発症には、薬剤の代謝産物や遺伝的要因(HLA型など)も関与しており、個人差が大きいことも特徴です。
薬疹と混同されやすい他のアレルギー反応には、アナフィラキシーや接触皮膚炎などがあります。これらとの違いを理解することは、適切な診断と治療につながります。
薬疹とアナフィラキシーの違い:
| 特徴 | 薬疹 | アナフィラキシー |
|---|---|---|
| 発症時間 | 多くは服用開始後1週間以降 | 薬剤投与後数分〜数時間以内 |
| 主な症状 | 皮膚症状が主体 | 皮膚症状に加え、呼吸器・循環器症状 |
| 重症度 | 多くは命に関わらない | ショック状態に陥り、命の危険あり |
| 機序 | 主にT細胞介在性(IV型) | IgE介在性(I型) |
アナフィラキシーは、薬剤の成分がアレルゲンとなり、短時間で皮膚症状に加えて呼吸器・循環器の症状が急激に現れる全身性の重篤なアレルギー反応です。ショック状態に陥り、命が危険にさらされることもあります。一方、薬疹は服用を開始しておおむね1週間後以降に現れる、皮膚症状を主体とするアレルギー反応です。
薬疹と接触皮膚炎の違い:
薬疹は内因性(体内に取り込まれた薬剤による)の反応であるのに対し、接触皮膚炎は外因性(皮膚に直接接触した物質による)の反応です。この違いは皮疹の性状にも表れます。
この違いは、原因物質の侵入経路の違いに起因します。薬疹の場合、原因物質が血流に乗って皮膚に到達することで発症するのに対し、接触皮膚炎は原因物質が表皮に直接接触することで発症します。
薬疹の発症メカニズムにおいて、好酸球は重要な役割を果たしています。特に薬剤過敏症症候群(DIHS/DRESS)などの重症薬疹では、好酸球増多が特徴的な所見として知られています。
好酸球は白血球の一種で、通常は寄生虫感染やアレルギー反応に関与します。薬疹の場合、薬剤に対する免疫反応の一環として好酸球が活性化され、組織に浸潤することで炎症反応を引き起こします。
薬疹における検査値の変化としては、以下のようなものが挙げられます。
ただし、すべての薬疹で好酸球増多が見られるわけではありません。北里大学医学部の研究によると、タキサン系抗悪性腫瘍薬による発疹を呈した患者のうち、好酸球値が高値(>6.0%)だったのは31.0%、好酸球数が増加(≧500/μL)していたのはわずか6.9%でした。
北里医学:新規タキサン系抗悪性腫瘍薬による発疹に関する検討
このように、薬疹の種類や原因薬剤によって、好酸球の動態や検査値の変化は異なります。そのため、薬疹の診断においては、臨床症状と合わせて、これらの検査値の変化を総合的に評価することが重要です。
薬疹はその臨床像や発症機序によって、さまざまな種類に分類されます。それぞれのタイプによって症状や重症度、治療法が異なるため、正確な分類が重要です。
1. 播種状紅斑丘疹型薬疹
最も頻度の高い薬疹のタイプで、全薬疹の80%以上を占めます。小さな紅斑や紅色丘疹が全身に左右対称性に広がります。
2. 多形紅斑型薬疹
円形の紅斑が特徴で、同心円状に拡大し、二重丸や三重丸のように見えることもあります。
3. 蕁麻疹型薬疹
蕁麻疹に似た膨疹(じんしん)が出現します。