薬疹の症状と治療法・原因・種類・検査方法

薬疹の症状と原因

薬疹の基本情報
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薬疹とは

薬剤や代謝産物によって生じる皮膚・粘膜の発疹のことで、アレルギー性と非アレルギー性に分類されます。

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主な原因薬剤

抗菌薬、鎮痛剤(NSAIDs、アセトアミノフェン)、抗てんかん薬、造影剤など多岐にわたります。

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発症タイミング

多くは薬剤開始後4〜5日〜2〜3週間で発症しますが、薬剤や薬疹の種類によって異なります。

薬疹とは、薬剤やその代謝産物によって引き起こされる皮膚や粘膜の発疹のことです。薬疹は医薬品副作用の中でも最も頻度が高く、皮膚科を受診する患者さんの中でも一定の割合を占めています。

 

薬疹の発症メカニズムは主に免疫学的機序によるものと非免疫学的機序によるものに分けられます。免疫学的機序では、薬剤が体内で異物として認識され、免疫システムが過剰反応を起こすことで発疹が生じます。非免疫学的機序では、抗腫瘍薬による脱毛やステロイドによるざ瘡(ニキビ)などが含まれます。

 

薬疹の症状は多岐にわたり、軽微なものから生命を脅かす重症なものまでさまざまです。発症のタイミングも薬剤の種類や薬疹のタイプによって異なります。一般的には、初めて服用する薬の場合、アレルギーが成立するまでの感作期間が必要であるため、投与直後に薬剤アレルギーを生じる可能性は低いとされています。

 

薬疹の主な症状と特徴

薬疹の症状は多様ですが、主な症状には以下のようなものがあります。

  • 発疹・紅斑: 最も一般的な症状で、赤い斑点や盛り上がりが皮膚に現れます
  • かゆみ: 多くの薬疹で強いかゆみを伴います
  • 発熱: 特に重症型の薬疹では38.5℃以上の発熱がみられることがあります
  • 粘膜症状: 口内炎や眼の充血、ただれなどが生じることがあります
  • 水疱・びらん: 重症例では水疱やびらんが形成されることもあります
  • リンパ節腫脹: 全身性の反応として、リンパ節が腫れることがあります

薬疹の症状の特徴として、多くの場合、体の中心(体幹)に生じ、四肢末梢に向かって拡大していくことが挙げられます。また、左右対称性に発疹が出現することも特徴的です。

 

薬疹の症状の重症度は、原因となる薬剤や個人の感受性によって大きく異なります。軽症の場合は発疹やかゆみのみで済むこともありますが、重症例では全身症状を伴い、時には命に関わることもあります。

 

薬疹を引き起こす主な原因薬剤

薬疹を引き起こす可能性のある薬剤は非常に多岐にわたりますが、特に頻度が高いものとしては以下のようなものが挙げられます。

  1. 抗菌薬
    • ペニシリン系(アモキシシリンなど)
    • セフェム系
    • キノロン系(レボフロキサシン、クラビットなど)
  2. 解熱鎮痛剤
    • NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど)
    • アセトアミノフェン
  3. 抗てんかん薬
    • カルバマゼピン
    • フェニトイン
    • ラモトリギン
  4. 痰を切る薬(去痰剤)
    • カルボシステイン
  5. 造影剤
    • ヨード造影剤
  6. 生物学的製剤
    • 抗TNF-α抗体など
  7. 抗がん剤
    • タキサン系など

特に抗てんかん薬のカルバマゼピンについては、HLA-A31:01やHLA-B15:11といった特定のHLA型を持つ人で薬疹のリスクが高まることが報告されています。2023年の理化学研究所の研究では、カルバマゼピンによる重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症)の患者におけるHLA-B*15:11の保有率は29%で、日本人集団における保有率2%と比較して統計的に有意に高いことが明らかになっています。

 

理化学研究所:抗てんかん薬による薬疹の種類別リスク因子を発見

薬疹の発症メカニズムと時間経過

薬疹の発症メカニズムは複雑で、いくつかのタイプに分類されます。Gell and Coombs分類によると、以下の4つのタイプがあります。

  • I型(即時型): IgE抗体が関与し、薬剤投与後数分〜1時間以内に発症。蕁麻疹やアナフィラキシーなど。

     

  • II型(細胞障害型): IgGやIgM抗体が関与し、薬剤投与後5〜14日で発症。溶血性貧血や血小板減少症など。

     

  • III型(免疫複合体型): 抗原抗体複合体が関与し、薬剤投与後7〜21日で発症。血清病様反応など。

     

  • IV型(遅延型): T細胞が関与し、薬剤投与後2〜7日(再投与時は数時間〜2日)で発症。接触皮膚炎や多くの薬疹など。

     

薬疹の発症時期は、薬剤の種類や薬疹のタイプによって異なりますが、一般的には以下のようなパターンがあります。

  1. 初回投与時:
    • 多くの薬疹は薬剤開始後4〜5日〜2〜3週間で発症します
    • 感作期間(アレルギーが成立するまでの期間)が必要なため、投与直後の発症は稀です
    • 薬剤開始後1〜3日で発疹が出現した場合、薬疹ではない可能性が高いとされています
  2. 再投与時:
    • すでに感作されている場合は、再投与時に速やかに症状が出現することがあります
    • ヨード造影剤による薬疹の場合、2回目以降は検査当日か翌日に発疹が出現することがあります
  3. 例外的なケース:
    • 抗てんかん薬などによる薬剤過敏症症候群(DIHS/DRESS)は、開始後2ヶ月以降に発症することがあります
    • 降圧薬などによる扁平苔癬型・乾癬型薬疹の場合、発症までに数ヶ月から数年を要することもあります

薬疹の発症には、薬剤の代謝産物や遺伝的要因(HLA型など)も関与しており、個人差が大きいことも特徴です。

 

薬疹と他のアレルギー反応との違い

薬疹と混同されやすい他のアレルギー反応には、アナフィラキシーや接触皮膚炎などがあります。これらとの違いを理解することは、適切な診断と治療につながります。

 

薬疹とアナフィラキシーの違い:

特徴 薬疹 アナフィラキシー
発症時間 多くは服用開始後1週間以降 薬剤投与後数分〜数時間以内
主な症状 皮膚症状が主体 皮膚症状に加え、呼吸器・循環器症状
重症度 多くは命に関わらない ショック状態に陥り、命の危険あり
機序 主にT細胞介在性(IV型) IgE介在性(I型)

アナフィラキシーは、薬剤の成分がアレルゲンとなり、短時間で皮膚症状に加えて呼吸器・循環器の症状が急激に現れる全身性の重篤なアレルギー反応です。ショック状態に陥り、命が危険にさらされることもあります。一方、薬疹は服用を開始しておおむね1週間後以降に現れる、皮膚症状を主体とするアレルギー反応です。

 

薬疹と接触皮膚炎の違い:
薬疹は内因性(体内に取り込まれた薬剤による)の反応であるのに対し、接触皮膚炎は外因性(皮膚に直接接触した物質による)の反応です。この違いは皮疹の性状にも表れます。

  • 薬疹: 表面がツルツルした紅斑が特徴的で、真皮から始まる内因性の反応
  • 接触皮膚炎: 表面がザラザラした紅斑が特徴的で、表皮から始まる外因性の反応

この違いは、原因物質の侵入経路の違いに起因します。薬疹の場合、原因物質が血流に乗って皮膚に到達することで発症するのに対し、接触皮膚炎は原因物質が表皮に直接接触することで発症します。

 

薬疹における好酸球の役割と検査値の変化

薬疹の発症メカニズムにおいて、好酸球は重要な役割を果たしています。特に薬剤過敏症症候群(DIHS/DRESS)などの重症薬疹では、好酸球増多が特徴的な所見として知られています。

 

好酸球は白血球の一種で、通常は寄生虫感染やアレルギー反応に関与します。薬疹の場合、薬剤に対する免疫反応の一環として好酸球が活性化され、組織に浸潤することで炎症反応を引き起こします。

 

薬疹における検査値の変化としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 好酸球数増加:
    • 特にDIHS/DRESSでは95%の症例で好酸球増加が見られます
    • 好酸球数が500/μL以上に増加することが多いです
  2. 異型リンパ球の出現:
    • DIHS/DRESSでは67%の症例で異型リンパ球が出現します
  3. 肝機能障害:
    • DIHS/DRESSでは75%の症例で肝障害が見られます
    • AST、ALT、γ-GTPなどの上昇が見られます
  4. 腎機能障害:
    • DIHS/DRESSでは37%の症例で腎障害が見られます
  5. その他の臓器障害:
    • 肺病変(32%)
    • 筋肉、膵臓、脾臓病変なども報告されています

ただし、すべての薬疹で好酸球増多が見られるわけではありません。北里大学医学部の研究によると、タキサン系抗悪性腫瘍薬による発疹を呈した患者のうち、好酸球値が高値(>6.0%)だったのは31.0%、好酸球数が増加(≧500/μL)していたのはわずか6.9%でした。

 

北里医学:新規タキサン系抗悪性腫瘍薬による発疹に関する検討
このように、薬疹の種類や原因薬剤によって、好酸球の動態や検査値の変化は異なります。そのため、薬疹の診断においては、臨床症状と合わせて、これらの検査値の変化を総合的に評価することが重要です。

 

薬疹の種類と臨床的特徴

薬疹はその臨床像や発症機序によって、さまざまな種類に分類されます。それぞれのタイプによって症状や重症度、治療法が異なるため、正確な分類が重要です。

 

1. 播種状紅斑丘疹型薬疹
最も頻度の高い薬疹のタイプで、全薬疹の80%以上を占めます。小さな紅斑や紅色丘疹が全身に左右対称性に広がります。

 

  • 特徴: 体幹から始まり四肢末梢に向かって拡大、進行すると紅皮症型になることも
  • 原因薬剤: 抗菌薬、NSAIDs、抗てんかん薬、造影剤など多岐にわたる
  • 経過: 原因薬の中止で通常1週間以内に消退、薬剤中止後数日は発疹が拡大する可能性あり

2. 多形紅斑型薬疹
円形の紅斑が特徴で、同心円状に拡大し、二重丸や三重丸のように見えることもあります。

 

  • 特徴: 標的状(ターゲット状)の紅斑が特徴的
  • 原因薬剤: 抗生剤、痛み止めなど
  • 経過: 原因薬の中止で改善するが、重症化するとスティーブンス・ジョンソン症候群に移行することもある

3. 蕁麻疹型薬疹
蕁麻疹に似た膨疹(じんしん)が出現します。

 

  • 特徴: 唇の腫れ、息苦しさ、呼吸困難を伴うことがある
  • 原因薬剤: さまざまな薬剤
  • 経過: アナフィラキシーに進展する可能性があり、注意が必要
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