アゼラスチン 効果と副作用
アゼラスチンの有効成分と作用機序の特徴
アゼラスチン塩酸塩は、1986年に日本でエーザイ株式会社から販売が開始された医療用医薬品です。化学名は4-[(4-Chlorophenyl)methyl]-2-[(4RS)-(1-methylazepan-4-yl)]phthalazin-1(2H)-one monohydrochlorideで、分子式はC22H24ClN3O・HClです。白色の結晶性の粉末として知られています。
アゼラスチン塩酸塩の作用機序は主に以下の3つの働きに分類されます。
- ヒスタミン遊離抑制・抗ヒスタミン作用。
- ヒスタミンH1受容体に結合し、ヒスタミンの作用を阻害
- 肥満細胞からのヒスタミン遊離を抑制
- 血管透過性亢進や血管拡張を抑える
- ロイコトリエン産生/遊離抑制・拮抗作用。
- ロイコトリエンの産生と遊離を抑制
- 気道平滑筋の収縮を抑制
- 血管透過性亢進を抑制
- 炎症細胞の遊走/浸潤抑制作用・活性酸素産生抑制作用。
- 炎症部位への炎症細胞の集積を抑制
- 活性酸素の産生を抑え、組織障害を軽減
アゼラスチン塩酸塩は第2世代の抗ヒスタミン薬に分類され、第1世代と比較して中枢神経系への移行が少なく、眠気などの中枢神経系の副作用が比較的少ないとされています。また、即効性と持続性のバランスが良いという特徴も持っています。
アゼラスチンが効果を発揮する皮膚疾患の種類
アゼラスチン塩酸塩は、様々な皮膚疾患に対して効果を発揮します。特に以下の疾患に対する有効性が確認されています。
1. 慢性蕁麻疹(じんましん)
慢性蕁麻疹に対するアゼラスチン塩酸塩の臨床効果は非常に高いことが報告されています。407例を対象とした臨床研究では、紅斑、膨疹、そう痒に対して投与1週間後でかなりの改善が認められ、最終全般改善度は「改善」以上が87%と高い改善率を示しました。また、抗ヒスタミン剤やステロイド剤との併用でも高い改善率が確認されています。
2. アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎に対しては、特にそう痒(かゆみ)の症状に効果を発揮します。臨床研究では、アトピー性皮膚炎患者に対する有用度において、「きわめて有用」と「有用」を合わせると69.5%の有効率が報告されています。
3. 湿疹・皮膚炎
その他の湿疹・皮膚炎に対しては、86.9%という高い有用度が報告されています。特に、接触皮膚炎などのアレルギー性の皮膚炎に対して効果的です。
4. 痒疹
痒疹に対する有用度は73.0%と報告されており、強いかゆみを伴う本疾患に対して効果的です。
5. 皮膚瘙痒症
皮膚瘙痒症に対しては74.1%の有用度が報告されており、原因不明のかゆみに対しても効果を発揮します。
これらの皮膚疾患に共通する症状である「そう痒(かゆみ)」に対して、アゼラスチン塩酸塩は特に有効であることが臨床研究から明らかになっています。ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の作用を抑制することで、かゆみの悪循環を断ち切る効果があります。
アゼラスチンの副作用とその対処法について
アゼラスチン塩酸塩は比較的安全性の高い薬剤ですが、他の医薬品と同様に副作用が報告されています。主な副作用とその対処法について解説します。
主な副作用の種類と頻度
- 精神神経系の副作用(0.1~5%未満)
- 眠気
- 倦怠感(だるさ)
- めまい(0.1%未満)
- 頭痛(0.1%未満)
- 手足のしびれ(0.1%未満)
- 消化器系の副作用(0.1~5%未満)
- 口渇(口の渇き)
- 悪心・嘔吐
- 口内および口周囲のあれ(0.1%未満)
- 食欲不振(0.1%未満)
- 胸やけ、胃部不快感、腹痛、便秘、下痢(0.1%未満)
- その他の副作用
- 循環器:顔面のほてり、動悸(頻度不明)
- 呼吸器:鼻乾燥、息苦しさ(頻度不明)
- 肝臓:AST、ALT、Al-Pの上昇(0.1~5%未満)
- 過敏症:発疹(頻度不明)
- 血液:白血球増多(頻度不明)
- 泌尿器:頻尿(0.1%未満)、排尿困難、血尿(頻度不明)
- その他:苦味感、味覚異常(0.1%未満)、浮腫(頻度不明)、月経異常(頻度不明)
臨床研究では、副作用の発現率は4.0~6.1%程度と報告されており、その大部分が眠気であることが確認されています。重篤な副作用はほとんど報告されていません。
副作用への対処法
- 眠気への対処
- 就寝前に服用することで日中の眠気を軽減
- 車の運転や機械操作など危険を伴う作業を避ける
- 医師と相談の上、用量調整や他剤への変更を検討
- 口渇への対処
- こまめな水分摂取
- 無糖のガムやキャンディーの利用
- 人工唾液の使用
- 消化器症状への対処
- 食後の服用
- 胃粘膜保護剤との併用(医師の指示による)
- 症状が持続する場合は医師に相談
- その他の副作用
- 症状が気になる場合は自己判断で服用を中止せず、医師に相談
- 発疹などのアレルギー症状が現れた場合は直ちに服用を中止し、医師に相談
アゼラスチン塩酸塩の副作用は一般的に軽度であり、服用を中止することで回復することがほとんどです。しかし、副作用の種類や程度には個人差があるため、気になる症状がある場合は医師や薬剤師に相談することが重要です。
アゼラスチンと他の抗ヒスタミン薬との比較
アゼラスチン塩酸塩は多くの抗ヒスタミン薬の中でも特徴的な性質を持っています。ここでは、他の抗ヒスタミン薬との比較を通じて、アゼラスチンの位置づけを明確にします。
第1世代と第2世代の抗ヒスタミン薬の違い
特性 | 第1世代(クロルフェニラミンなど) | 第2世代(アゼラスチンなど) |
---|---|---|
血液脳関門通過性 | 高い | 低い |
中枢神経系副作用 | 強い(眠気など) | 比較的弱い |
抗コリン作用 | 強い | 弱い |
作用持続時間 | 短い(4-6時間) | 長い(12-24時間) |
食事の影響 | 少ない | 薬剤により異なる |
アゼラスチン塩酸塩は第2世代に分類され、中枢神経系への移行が少なく、眠気などの副作用が比較的少ないという特徴があります。ただし、個人差があり、一部の患者では眠気を感じることもあります。
主な抗ヒスタミン薬との効果・副作用比較
薬剤名 | 抗ヒスタミン作用 | 抗アレルギー作用 | 眠気 | 口渇 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
アゼラスチン | 強い | 強い | 中程度 | あり | ロイコトリエン遊離抑制作用あり |
セチリジン | 強い | 中程度 | 少ない | あり | 長時間作用型 |
フェキソフェナジン | 中程度 | 中程度 | ほとんどなし | 少ない | 眠気が最も少ない |
ロラタジン | 中程度 | 中程度 | 少ない | 少ない | 食事の影響を受けにくい |
エバスチン | 強い | 中程度 | 少ない | 少ない | 活性代謝物が長時間作用 |
アゼラスチン塩酸塩の大きな特徴は、抗ヒスタミン作用に加えて、ロイコトリエン遊離抑制作用や肥満細胞からのケミカルメディエーター放出抑制作用など、複数の抗アレルギー作用を持つ点です。これにより、単なるヒスタミンH1受容体拮抗薬よりも広範囲のアレルギー反応を抑制することができます。
また、アゼラスチン塩酸塩は半減期が約12時間と比較的長く、1日2回の服用で効果を維持できます。薬物動態データによると、アゼラスチン塩酸塩1mg錠の最高血中濃度到達時間(Tmax)は約5時間、最高血中濃度(Cmax)は約2.85ng/mLとなっています。
アゼラスチンの臨床効果と長期使用における注意点
アゼラスチン塩酸塩の臨床効果は多くの研究で実証されていますが、長期使用においては特有の注意点があります。ここでは、臨床効果のエビデンスと長期使用時の留意事項について解説します。
臨床効果のエビデンス
- 慢性蕁麻疹に対する効果
407例を対象とした臨床研究では、アゼラスチン塩酸塩投与後の全般改善度が「改善」以上で87%という高い有効率を示しました。特に紅斑、膨疹、そう痒の三大症状に対して、投与1週間後から顕著な改善が認められています。
- そう痒性皮膚疾患に対する効果
353例(男性181例、女性172例、平均年齢46.0歳)を対象とした臨床研究では、アトピー性皮膚炎で69.5%、その他の湿疹・皮膚炎で86.9%、痒疹で73.0%、蕁麻疹で83.8%、皮膚そう痒症で74.1%の有用度が報告されています。特にそう痒(かゆみ)に対して高い有効性が確認されています。
- 気道および鼻粘膜の過敏性低下作用
気道・鼻粘膜過敏性測定試験において、アゼラスチン塩酸塩投与により喘息患者およびアレルギー性鼻炎患者の気道・鼻粘膜の過敏性を低下させることが確認されています。これは、アゼラスチン塩酸塩が皮膚疾患だけでなく、呼吸器系のアレルギー疾患にも効果を発揮することを示しています。
長期使用における注意点
- 耐性の問題
長期間使用することで効果が減弱する(耐性が生じる)可能性があります。効果が低下したと感じる場合は、自己判断で用量を増やさず、医師に相談することが重要です。
- 肝機能への影響
長期使用によって肝機能検査値(AST、ALT、Al-Pなど)の上昇が報告されています。定期的な肝機能検査を受けることが推奨されます。
- 薬物相互作用
長期間にわたって他の薬剤と併用する場合、薬物相互作用に注意が必要です。特に中枢神経抑制作用を持つ薬剤(睡眠薬、抗不安薬など)との併用では、相加的に眠気が増強する可能性があります。
- 高齢者における注意点
高齢者では肝機能や腎機能が低下していることが多く、副作用が出やすい傾向があります。また、転倒リスクの増加にも注意が必要です。
- 妊婦・授乳婦への投与
妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与については、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されるべきです。授乳中の女性については、授乳を中止するか、薬剤の使用を中止するかを検討する必要があります。