皮膚炎の症状と原因
を皮膚炎は、皮膚の表面(表皮・真皮上層)に起こる炎症の総称で、「湿疹」とも呼ばれます。皮膚科の臨床現場では非常に多く見られる疾患のひとつです。皮膚炎の症状は多岐にわたり、患者さんの生活の質に大きく影響することがあります。
皮膚炎の主な症状は、強いかゆみと皮膚表面の変化です。赤みだけの場合もあれば、ブツブツができたり、水疱が形成されたりと、多様な経過をたどります。これらの症状は「湿疹三角」と呼ばれる進行過程に沿って変化していくことが多いです。
皮膚炎の症状は、その原因や種類によって異なりますが、一般的には以下のような症状が見られます。
- 赤み(紅斑):皮膚に炎症が起き、毛細血管が拡張する状態
- ブツブツ(丘疹):浸出液が皮下に浸み出て、小さな膨らみができる状態
- 水疱:さらに浸出液が出て小さな水ぶくれができる状態
- 膿疱:炎症が進んで、水ぶくれの中に白くドロッとした膿がたまる状態
- ただれ(びらん):水疱が破れてジュクジュクした状態
- かさぶた:ただれた部分が乾燥して固まった状態
- 皮膚の肥厚:慢性的な皮膚炎で見られる、皮膚が厚くなった状態
これらの症状は、皮膚炎の種類や進行度によって様々な組み合わせで現れます。また、皮膚炎が慢性化すると、皮膚が乾燥してザラザラ、ゴワゴワした状態になり、色素沈着が起こることもあります。
皮膚炎の症状の進行過程と湿疹三角
皮膚炎の症状は、「湿疹三角」と呼ばれる進行過程に沿って変化していくことが多いです。この湿疹三角は、皮膚炎の症状が時間とともにどのように変化していくかを示す重要な概念です。
湿疹三角の進行過程は以下のようになります。
- 紅斑(赤み):最初の段階で、皮膚に炎症が起き、毛細血管が拡張することで赤みが現れます。この段階ではまだ皮膚の表面は平らで、かゆみを感じ始めることが多いです。
- 滲出性丘疹(ブツブツ):炎症が進むと、浸出液が皮下に浸み出て、小さなブツブツした膨らみ(丘疹)ができます。この段階でかゆみが強くなることが多いです。
- 小水疱(水ぶくれ):さらに炎症が進むと、より多くの浸出液が出て、小さな水ぶくれ(小水疱)が形成されます。水ぶくれは透明な液体で満たされています。
- 膿疱(膿をもつ水ぶくれ):炎症がさらに進行すると、水ぶくれの中に白くドロッとした膿がたまることがあります。これは二次感染が起きている可能性を示しています。
- びらん(ただれ・ジュクジュク):水ぶくれが破れると、皮膚の表面がただれてジュクジュクした状態になります。この状態は「滲出(しんしゅつ)」とも呼ばれ、皮膚のバリア機能が損なわれた状態です。
- かさぶた形成:ただれた部分が乾燥すると、かさぶたが形成されます。これは治癒過程の一部ですが、かさぶたが早く剥がれると、再びただれることがあります。
- 鱗屑(りんせつ)・落屑(らくせつ):皮膚の表面が薄くはがれ落ちる状態で、皮膚が再生している段階です。
- 苔癬化(たいせんか):慢性的な炎症により、皮膚が厚くなり、皮溝(皮膚の溝)が目立つようになった状態です。長期間にわたる掻破(そうは:かきむしること)によって起こることが多いです。
これらの症状は必ずしもこの順序で進行するわけではなく、皮膚炎の種類や個人差によって異なります。また、複数の段階の症状が同時に現れることもあります。
皮膚炎の症状と見られる部位の特徴
皮膚炎の症状が現れる部位には特徴があり、これが診断の手がかりになることがあります。また、部位によって症状の現れ方や重症度が異なることもあります。
顔面の皮膚炎
顔面は皮膚が薄く、血流が豊富なため、皮膚炎の症状が現れやすい部位です。特にアトピー性皮膚炎では、幼児期から小児期にかけて頬や額に赤みやかさつきが現れることが多いです。成人では、目の周り(眼瞼)や口の周り(口囲)に皮膚炎が現れることがあります。
眼瞼の皮膚炎では、まぶたの皮膚が赤く、腫れ、かゆみを伴います。重症化すると、まぶたが厚くなり、目が開きにくくなることもあります。また、眼瞼の皮膚炎が長期間続くと、白内障や網膜剥離などの眼の合併症を引き起こす可能性があるため、早期の治療が重要です。
口囲の皮膚炎(口囲皮膚炎)では、口の周りに赤みや小さな丘疹、鱗屑が現れます。歯磨き粉や食べ物、唾液などの刺激が原因となることがあります。
手の皮膚炎
手は外部からの刺激や化学物質に最も頻繁に曝される部位であり、接触皮膚炎が多く見られます。特に主婦や水仕事の多い職業の人では、「手湿疹(手荒れ)」が多く見られます。
手の皮膚炎の初期症状は、指の間や手の甲、手首などに赤みや小さな水疱が現れることが多いです。進行すると、皮膚が乾燥してひび割れ、痛みを伴うようになります。慢性化すると、皮膚が厚くなり、皮溝が目立つようになります。
足の皮膚炎
足の皮膚炎は、靴や靴下による摩擦や蒸れ、足の汗などが原因となることが多いです。特に足の指の間は湿気がこもりやすく、白癬菌(水虫)などの感染症と皮膚炎が併発することもあります。
足の皮膚炎では、足の裏や指の間に赤みや水疱、ただれなどが現れます。慢性化すると、皮膚が厚くなり、ひび割れを起こすことがあります。
体幹部の皮膚炎
体幹部(胸、背中、腹部など)の皮膚炎は、アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎などで見られます。特に背中や胸は汗をかきやすい部位であり、汗による刺激が皮膚炎を悪化させることがあります。
体幹部の皮膚炎では、赤みや鱗屑、丘疹などが現れます。特に脇の下や胸の下、鼠径部などの皮膚が重なる部位では、蒸れによる刺激で症状が悪化しやすいです。
関節部の皮膚炎
肘の内側や膝の裏側などの関節部は、アトピー性皮膚炎でよく症状が現れる部位です。これらの部位は皮膚が曲げ伸ばしされることで刺激を受けやすく、また掻きやすい部位でもあるため、症状が慢性化しやすいです。
関節部の皮膚炎では、赤みや乾燥、苔癬化(皮膚の肥厚)が見られます。特に小児のアトピー性皮膚炎では、肘窩(ちゅうか:肘の内側)や膝窩(しっか:膝の裏側)に症状が集中することが多いです。
皮膚炎の症状と種類による違い
皮膚炎にはいくつかの種類があり、それぞれ症状の現れ方や特徴が異なります。主な皮膚炎の種類とその症状の特徴を見ていきましょう。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発症する慢性の皮膚炎です。主な症状は強いかゆみと特徴的な湿疹で、体の左右対称に症状が現れることが多いです。
アトピー性皮膚炎の症状は年齢によって特徴が異なります。
- 乳児期(0~2歳):頭や顔から始まり、体や手足に広がります。頬や額の赤みやただれが特徴的です。
- 幼小児期(2~12歳):首や関節の曲がる部分(肘の内側、膝の裏側など)に皮疹が多く見られます。
- 思春期・成人期(13歳以上):上半身、特に顔、首、胸、背中に皮疹が集中します。また、手や足にも症状が現れることがあります。
アトピー性皮膚炎の皮膚は乾燥しやすく、バリア機能が低下しているため、外部からの刺激に敏感です。また、掻くことで症状が悪化する「かゆみ-掻破-悪化」の悪循環に陥りやすいという特徴があります。
接触皮膚炎
接触皮膚炎は、特定の物質に直接触れることで皮膚に炎症が起きる病気です。刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎の2種類があります。
刺激性接触皮膚炎は、強い酸やアルカリ、洗剤などの刺激物質に触れることで起こります。症状はかゆみよりも痛みがよく見られ、刺激物に触れなくなってから1~2日後に症状が軽減します。
アレルギー性接触皮膚炎は、特定の物質に対するアレルギー反応によって起こります。症状は痛みよりもかゆみがよく見られ、曝露から1日以上経ってから症状が現れ、2~3日後にひどくなることがあります。
接触皮膚炎の発疹は、物質に触れた部位にのみ生じるという特徴があります。例えば、ツタウルシによるアレルギー性接触皮膚炎では、皮膚に線状の発疹が生じます。
脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が多い部位(頭皮、眉毛、鼻の周り、耳の後ろ、胸の中央など)に発生する皮膚炎です。赤み、かゆみ、鱗屑(フケのような皮膚のかけら)が特徴的です。
脂漏性皮膚炎の症状は、頭皮のフケから始まることが多く、進行すると赤みを伴うようになります。新生児では「乳児脂漏性湿疹」や「乳児湿疹」として現れ、頭皮に厚い黄色いかさぶた(俗に「おでき」と呼ばれる)ができることがあります。
貨幣状湿疹
貨幣状湿疹(かへいじょうしっしん)は、コイン形の円形または楕円形の湿疹が特徴的な皮膚炎です。主に四肢(特に下肢)に現れ、強いかゆみを伴います。
貨幣状湿疹の症状は、初期には小さな水疱や丘疹として始まり、次第に拡大して円形の湿疹となります。湿疹の境界は明瞭で、中心部は治癒して周辺部が拡大する「環状」になることもあります。
うっ滞性皮膚炎
うっ滞性皮膚炎(静脈瘤性皮膚炎)は、下肢の静脈還流障害によって起こる皮膚炎です。主に下腿(すねからくるぶしまで)に現れ、皮膚の変色、浮腫(むくみ)、湿疹などの症状を示します。
うっ滞性皮膚炎の初期症状は、下腿の皮膚の赤褐色化や浮腫です。進行すると、湿疹、色素沈着、皮膚の硬化、潰瘍形成などが見られるようになります。