

日焼け止めを塗るたびにかゆくなる、赤みが出る——そんな経験をお持ちの方は、成分に注目していない可能性があります。
「ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン」という成分名を見て、読み解くのに一瞬考えてしまった方は多いはずです。これは主にヨーロッパで開発された合成紫外線吸収剤で、INCI名(国際化粧品成分命名法)では「Bis-Ethylhexyloxyphenol Methoxyphenyl Triazine」と表記されます。略称として「BEMT」や商品名「Tinosorb S」としても知られています。
この成分の最大の特徴は、UV-AとUV-Bの両方の紫外線を幅広い波長域でカットできる「広域紫外線吸収剤」である点です。一般的な紫外線吸収剤の多くがUV-AかUV-Bのどちらか一方に特化しているのに対し、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは波長290〜390nmという広い範囲をカバーします。これはおよそUV領域全体の80〜85%をカバーする計算になります。
つまり、一種類でUV対策が幅広くできる優れた成分です。
さらに光安定性が非常に高く、紫外線を浴びても分解されにくいという特性があります。従来の吸収剤の中には太陽光に当たることで化学構造が変化し、効果が低下したり、肌への刺激物質が生じたりするものもありました。ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンはそうした光分解が起きにくく、長時間のUVケア効果が期待できます。
日本では化粧品への配合が2007年以降に認められており、現在は国内外の多くの日焼け止め製品に使われています。
「日焼け止めを塗るとかゆくなる=紫外線吸収剤が原因」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし実際には、かゆみの原因はもう少し複雑です。
紫外線吸収剤は皮膚に浸透して紫外線を熱エネルギーに変換する仕組みのため、皮膚への浸透性が比較的高い成分が多いです。浸透した際に免疫系が「異物」と認識してしまうと、ヒスタミン放出が起き、かゆみや赤みとして現れます。これを「接触性皮膚炎」と呼びます。
ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは比較的分子量が大きく(約628g/mol)、皮膚浸透性が他の吸収剤よりも低いとされています。分子量が大きい=皮膚を通り抜けにくい、と考えると、単体でのかゆみ発生リスクは比較的小さいといえます。
これは意外な事実ですね。
ただし、日焼け止め製品には複数の成分が配合されています。ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン以外に含まれることの多い「オキシベンゾン(ベンゾフェノン-3)」「メトキシケイ皮酸エチルヘキシル(オクチノキサート)」などの吸収剤、あるいはパラベン類などの防腐剤がかゆみを引き起こしている可能性があります。かゆみが出た製品の全成分表示を確認し、どの成分が共通しているかを調べることが、原因特定への近道です。
かゆみの原因を絞り込むことが条件です。
日焼け止めを大きく分類すると、「紫外線吸収剤配合タイプ」と「紫外線散乱剤配合タイプ」に分かれます。かゆみに悩む方が「散乱剤タイプに切り替えれば安心」と考えるケースは多いですが、実はそれが正解とは限りません。
紫外線散乱剤の代表は酸化チタン(チタニウムジオキシド)と酸化亜鉛です。これらは肌の表面で紫外線を物理的に反射・散乱させる仕組みです。皮膚への浸透性が低く、アレルギー反応を起こしにくいとされてきました。しかし近年、ナノ粒子化された酸化チタン・酸化亜鉛では皮膚浸透性が高まるとの研究報告もあり、一概に「散乱剤なら安全」とはいえない状況になっています。
厳しいところですね。
一方、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンを含む吸収剤タイプは、使用感が軽く、白浮きしにくいというメリットがあります。散乱剤タイプは白くなりやすく、特に濃い肌色の方や日常使いでは目立ちやすい難点があります。かゆみのリスクよりも「毎日続けられるかどうか」という継続性の観点も、UVケアの効果に大きく影響します。
| 項目 | 紫外線吸収剤(BEMT含む) | 紫外線散乱剤 |
|------|----------------------|------------|
| 仕組み | 紫外線を熱に変換 | 紫外線を反射・散乱 |
| 白浮き | 少ない ✅ | やや出やすい |
| 皮膚浸透性 | 成分により異なる | ナノ粒子は要注意 |
| かゆみリスク | 他成分との組み合わせ次第 | アレルギーが出る人も |
| 使用感 | 軽い・なじみやすい | やや重め |
かゆみが出たとき、吸収剤タイプと散乱剤タイプを交互に試してみると、どちらで症状が軽いかが分かり、自分の肌の傾向を把握しやすくなります。
成分表示を読む習慣があれば、かゆみのリスクを事前に減らせます。これは使えそうです。
化粧品の成分表示は「配合量が多い順」に記載するルールになっています。つまり、成分表の上位に記載されているものほど製品中に多く含まれているということです。ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは通常5〜10%程度の配合濃度が多く、成分表の中ほどに登場するケースが一般的です。
かゆみが出やすい成分として特に注意したいのは以下のものです。
- ベンゾフェノン-3(オキシベンゾン):EU圏では2021年以降に濃度規制が厳しくなった成分。接触アレルギーの報告が複数存在します。
- オクチノキサート(メトキシケイ皮酸エチルヘキシル):広く使われる吸収剤ですが、光アレルギーを引き起こす可能性があるとして一部の国で使用制限の議論が続いています。
- フェノキシエタノール:防腐剤として広く使用されますが、敏感肌や乳幼児への影響が指摘されることがあります。
- 香料(Fragrance / Parfum):香料アレルギーは接触性皮膚炎の原因として非常に多く、見落とされやすいです。
確認する際は、「前回かゆみが出た製品」と「今使おうとしている製品」の成分表を並べて比較するのが効率的です。共通して上位に来ている成分が、かゆみの原因候補である可能性が高いと判断できます。スマートフォンの写真で成分表を撮影しておくと、後から比較しやすくなります。
成分チェックが習慣になれば、トライアンドエラーの回数を大幅に減らせます。なお、皮膚科では「パッチテスト」を行い、特定成分への反応を30分〜48時間かけて確認できます。自己判断に限界を感じた場合は、1〜2回の受診で原因を特定できる可能性があるため、検討する価値があります。
かゆみを防ぎながら日焼け止めを使い続けるための選び方を整理します。
① 「ノンケミカル」や「低刺激」表示だけに頼らない
「ノンケミカル」は紫外線吸収剤不使用という意味であり、防腐剤や界面活性剤については言及していません。また「低刺激」は法的な定義がなく、各メーカーの自称であることを知っておく必要があります。
② SPF・PA値よりも「成分の少なさ」に注目する
成分数が少ない製品は、かゆみの原因を特定しやすいという利点があります。SPF50+・PA++++の製品が必ずしも日常生活に必要なわけではなく、通勤・室内作業程度の生活ならSPF20〜30・PA++程度で十分な場合も多いです。
③ フレグランスフリー・アルコールフリーを優先する
香料とアルコール(エタノール)は皮膚の炎症を助長しやすい成分です。かゆみが出やすい方は、この2つが入っていない製品を基準に選ぶだけでも症状が軽減されるケースがあります。
④ 少量でパッチテストを行う
新しい製品を購入したら、最初から顔全体に塗るのではなく、耳の後ろや二の腕の内側に少量塗って24時間様子を見ることを習慣にしてください。
日本皮膚科学会の「接触性皮膚炎ガイドライン」では、化粧品による接触皮膚炎の原因として防腐剤・香料・紫外線吸収剤が上位を占めると報告されています。原因特定のためのパッチテストは皮膚科で保険適用で受けられる場合もあるため、繰り返しかゆみが出る方は受診を検討することが有効です。
日本皮膚科学会 接触性皮膚炎診療ガイドライン(参考:成分アレルギーの診断基準と対応方法について詳述)
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/contactdermatitis_guideline.pdf
かゆみが続くなら皮膚科での確認が最善です。
「かゆみ=成分の問題」と決めつける前に、「塗り方の問題」という視点を持つことが重要です。意外に見落とされているのが、日焼け止めの「塗布量・塗り方・重ね方」によってもかゆみが変わるという事実です。
まず塗布量の問題です。日焼け止めの効果表示(SPFやPA)は、皮膚1cm²あたり2mgという一定量を均一に塗ったときの数値です。日本人女性の顔の平均面積はおよそ600cm²とされているため、顔だけで約1.2g(小さじ4分の1杯程度)が必要な計算になります。実際にはこの量をしっかり塗れている人は少なく、薄塗りになりがちです。
薄塗りだと何度も重ね塗りすることになります。結果として総量は増えないのに、塗布の回数だけが増え、皮膚への摩擦刺激がかゆみを引き起こすケースがあります。これは盲点ですね。
次に「塗る順番」の問題です。スキンケアの最後に日焼け止めを塗るのが一般的ですが、乳液や美容液が完全にになじんでいない状態で日焼け止めを塗ると、成分同士が混ざり合い刺激が増すことがあります。スキンケア後に2〜3分待ってから日焼け止めを塗ることで、肌への刺激を軽減できます。
また、日焼け止めを落とすときの洗浄にも注意が必要です。強くこすって洗うと、成分が残っていなくても摩擦によって炎症が起き、翌日のかゆみの原因になります。泡でやさしく包み込むように洗い、ぬるま湯で丁寧にすすぐのが基本です。
塗り方・落とし方まで見直すことが条件です。
参考情報として、紫外線吸収剤の安全性評価については、厚生労働省が「医薬部外品原料規格」および「化粧品基準」に基づき成分ごとの配合上限濃度を定めており、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは最大10%以下での配合が認められています。
厚生労働省 化粧品基準(参考:日本で認可されている紫外線防止成分の一覧と配合可能上限濃度の確認ができます)
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kizon/keshouhin.html
日本化粧品技術者会(SCCJ)による成分解説ページ(参考:ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンを含む紫外線フィルター成分の詳細な特性が掲載されています)
https://www.sccj-ifscc.com/